aamujyou113
噫無情(ああむじょう) (扶桑堂 発行より)(転載禁止)
ビクトル・ユーゴ― 作 黒岩涙香 翻訳 トシ 口語訳 *
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噫無情 仏国 ユゴー先生作 日本 涙香小史 訳
百十三 千八百三十二年
とは言え、世間は決して、波風の無い時節では無かった。此の時は丁度千八百三十二年の初めで、此の国に革命が起ころうとして居たのだ。守安の属して居る彼の「ABCの友」なども、折さえ有れば一揆軍を起こして、政府転覆、国王放逐の旗揚げをしようと、会員孰(いず)れも血眼に為って居た。
守安は其れ等は知らないでは無いけれど、其の方へは見向きもしなかった。のみならず今一つ守安に、多少の関係が無いと言えないのは、彼の先頃から捕らわれて居た手鳴田の一味が、ラホースの獄を破って逃げ出した一事である。
彼等は同類が多い為、外から助けて遣った者も有って、或る風雨の夜に乗じて脱牢を企てた。そうして旨く逃げ果(おお)せた。此の頃の新聞紙は筆を揃えて書き立てて居るけれど、守安は其の事をも良くは知らない。イヤ新聞の上で知っては居るけれど、気に留めないのだ。
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