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探偵小説 無惨   小説館版

黒岩涙香 作 トシ 口語訳

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       探偵小説 無惨     涙香小史 作

       中篇(忖度)ー1 大鞆の捜査報告

  翌六日の正午、大鞆は三筋の髪の毛を恭(うやうや)しく紙に包み、水引を掛けないばかりにして、警察署に出頭し、先ず荻澤警部の控所に入った。折柄、警部は次ぎの部屋で、食事中だったので、その終わって出て来るのを待ち、突如(だしぬけ)に、
 「長官大変です。」

 荻澤は半拭(はんけち)で、髯の汚れを拭取(ふきと)りながら、椅子に憑(よ)りかかり、
 「唯だ大変とばかりでは、分からないが、手掛かりでも有ったのか。」
 (大)エ、手掛かり。手掛かりは最初のものです。もう悉皆(すっかり)分かりました。実の犯人が。何町何番地の何の誰と云う事まで。」

 荻澤は怪しんで、
 「何うして分かった。」
 (大)理学的論理的考察で分かりました。而(しか)も重大な犯罪人です。実に大事件です。」
 萩澤は殆んど大鞆が、急に発狂したかと迄に怪しみながら、
 「重大な犯罪人とは誰だ。名前が分かって居るなら、先ずその名前を聞こう。」

 (大)素(もと)より名前を言いますが、それより前に、私の発見した手続きを申します。けれど長官、私が説明して仕舞う迄は、此の部屋へ誰も入れない事に仕て下さい。小使い、その他は申すに及ばず、仮令(たと)い谷間田が帰って来たとしても、決して無断では入れないように。

 (萩)好し、好し、谷間田は、お紺の隠伏(かくれ)て居る所が分かったので、午後二時までには引き立てて来ると言って、今方出て行ったから、安心して話すが好い。」

 荻澤は固(もと)より、心から大鞆の言葉を、信じるものでは無い。今は丁度、外に用も無い。それに、全く初陣である大鞆の技量を、試そうと思うことから、そのままに従っているのだ。

 (鞆)「では長官、少し暑いですけれどが、戸を締めますよ。昨日も油断して、独言(ひとりごと)を吐(い)って居た所、後で見れば、小使いが廊下を掃除しながら聞いて居ました。壁に耳の譬えだから、声が洩れない様にして置かなければ、安心ができません。」

と云いながら、四辺(あたり)の硝子戸を鎖(とざ)して、荻澤の前に居直り、紙包みから、彼の三筋の髪の毛を取り出だしながら、細語(ささや)く程の低い声で、

 「長官、此の髪(毛)を御覧なさい。是はアノ死人が、右の手に握って居たのですよ。」
 (荻)オヤ貴公もそれを持って居るか。谷間田も昨日、一本の毛を持って居たが。

 (大)イエ、了(いけ)ません。 谷間田より私が先に見つけたのです。実は四本握って居たのを、私が先へ廻って三本だけソッと抜いて置きました。ハイ谷間田はそれに気が附きません。初めから唯一本しか無い者と思って居ます。

 荻澤は心の中で、
 「個奴(こやつ)馬鹿の様でも、仲々抜け目が無いワい。」
と少し驚きながら、
 「それから何うした。」

(大)谷間田は、之を縮れ毛と思って、お紺に目を附けました。それが間違いです。若し谷間田の疑いが当たれば、それは偶中(まぐれあた)りです。論理に叶った当たり方では在りません。私しは一生懸命に成って、種々の書籍を取り出して、ヤッと髪の毛の性質だけを調べ上げました。

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