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探偵小説 無惨   小説館版

黒岩涙香 作 トシ 口語訳

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       探偵小説 無惨     涙香小史 作

       中篇(忖度)ー8 白髪頭は陳施寧

 そこで、大鞆は話し出した。
 「私しは全く昨日の中に、是だけの推理をして、犯人は、必ず年に似合わない白髪(しらが)が有って、それを旨く染めて居る支那人だと見て取りました。そこで、先ず谷間田に逢い、彼が何う云う発見をしたか、それを聞いた上で、自分の意見も述べて見ようと此の署を指して、宿所を出ました所、宿所の前で、以前から、筆、墨を初め、種々の小間物を売りにに来る、支那人に逢ったのです。

 何より個奴(こやつ)に問うのが一番だと思いましたから、明朝沢山に筆を買うから、俺の宿へ来て呉れと、言い附けて置きました。それから此の署へ来た所、丁度谷間田が出て行く所で、私しは呼び留めましたが、彼れは何か立腹の体で、返事もせず去って仕舞いました。

 それで止むを得ず、私しは又宿所へ引き返しましたが、今朝に成って、約束通り、その支那人が参りました。それを相手に、種々の話しをしながら、実は俺の親類に、年の若いのに、白髪(しらが)が有って困って居る者が有るが、お前えは白髪染粉(しらがそめこ)の類を売りはしないかと問いますと、その様な者は売らないと云います。

 それなら、若しその製法でも知っては居ないかと問いましたら、自分は知らないが、自分の親友で、居留地三号の二番館に居る同国人が、今年未だ四十四、五だのに、白髪だらけで、毎(いつ)も自分で染粉(そめこ)を調合し、湯に行く度に頭へ塗るが、仲々良く染まるから、金を呉れれば、その製法を聞いて来て遣ろうと云います。

 さては是こそと思い、
 「お前、居留地三号の二番と云えば、昨日も俺は三号の辺を通ったが。」
 「何でも子供が独楽(こま)を廻して居たなら、それに違いは有りません。その子供は即ち、今云った白髪のある人の貰い子だ。」
と云いました。

 それから色々と問いますと、第一、その白髪頭の名前は、陳施寧(ちんしねい)を云い、長く長崎に居て、明治二十年の春、東京へ上り、今では主に、横浜と東京の間を行き通いして居ると云います。それにその気性は支那人に似合わず、腹立ち易くて、折々人と喧嘩をした事も有ると云いました。サア是が即ち犯人です。三号の二番館に居る支那人、陳施寧が全く遺恨の為に殺したのです。

 荻澤は暫(しば)し黙然として考えて居たが、
 「成る程、貴公の云う事は重々尤(もっと)もだ。髪の毛の試験から推して見れば、何しても支那人で無くては成らず、又同じ支那人が、決して二人まで有るとは思はれ無い。併し果たして陳施寧として見れば、先ず清国領事に掛け合いも附けねばならない。兎に角、日本人が支那人に殺された事で有るゆえ、実に容易ならない事件で有る。

 (大)私しもそれを心配するのです。新聞屋にでも、之が知れたら、一ツの輿論を起こしますよ。何しろ陳施寧と云うのは憎い奴だ。併し、谷間田はそうとは知らず、未だお紺とかを探して居るだろうナ。
 こう云う折しも、入り口の戸を遽(あわただ)しく引き開けて入って来たのは、あの谷間田である。

 「今、陳施寧と云う声が聞こえたが、何うして此の犯人が分かったのだ。 」
 (荻)ヤヤ、谷間田、貴公も陳施寧と見込みを附けたか。
 (谷)見込み所では無いです。もうお紺を捕らえて参りました。お紺の証言で、陳施寧が犯人と云う事から、殺された本人の素性、殺された原因、残らず分かりました。

(荻)それは実に感心だ。谷間田も剛(えら)い《優れている》が、大鞆も剛い(優れている)者だ。
(谷)エ、大鞆が何故剛い(優れている)のです。

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