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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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        (六) 掘り出した珍品

 二人は上陸して、頓(やが)て網守子にも「子供」こと本名波太郎にも、昨夜救われた礼を述べたが、波太郎は不愛想に、
 「爾(そ)うか。」
とのみ答えて立ち去った。

 網守子は之に引き替え、両人(ふたり)を自分の兄弟でも有る様に、非常に打ち解けて持做(もてな)した。全く是が心の自然であろう。生まれて以来、友達と云う者が無く、四人合わせて三百歳と云う、老人のみの中に一人置かれた小娘で、最早十五にも成ったので、人懐かしさに我慢が出来ない筈である。

 竹「嬢さん、此の島に昔の龍寧州(リオネス)の国王の墓が有る相ですが。」
 網「私を嬢さんと云わずに網守子さんとお云いよ。私も貴方等を竹里(ちくり)さん、梨英(りえい)さんと云うからさ。」
 初めて逢った人同志が、苗字を略して名前をのみで呼び替(かわ)すことは、殆ど作法に無いことで、若しも都の娘が此の様なことを云えば、二人は眉を顰(ひそ)めたであらうが、自然の儘(まま)である此の娘の真情には、打ち解けない訳には行かない。

 「網守子(あもりこ)さん」
と竹里が云うと、先刻来無言同様な梨英も気軽く、
 「網守子さん」
と呼んだ。

 王家の古墳は山の半腹に十数個ある。墓とは云っても大きく土を盛上げただけで、殆ど天然に出来た山の瘤(こぶ)かと思われる。其の中の一個は数年前に其の筋の人が発掘し、貴重な幾種の古物を得、今でも倫敦(ロンドン)の博物館に陳列してある。此の墓だけが外科手術を経た瘤の様に、土も良く片付かずにある。

 三人はここに行き、竹里が色々網守子から説明を聞いて居る間に、梨英は独り杖を以て頻りに土を掘っていたが、暫くすると、非常な珍品を掘り出し、網守子さん、博物館の役人が大変な目こぼしをしましたよ。」
と言って立ち上がった。

 二人が何事かと左右から覗き込むと、梨英は手巾(ハンケチ)で其の品の泥を拭い、網守子に渡した。
 網守子「美しいですねえ。」
 竹里は驚いて、
 「ヤ、是は古代の貴人が用いた首輪だ。黄金だぜ。」
 実に黄金の首輪である。
 博物館にも同じ種類の物が幾個かある。

 中ほどは太く、其の細い両端が鍵に曲がり、首の背後で掛け合わす様に成って居る。
 此の様な貴重品が残って居たのも不思議であるが、偶然に梨英が堀当てたのも不思議である。

 網守子「是れは貴方が拾ったから貴方の物よ。」
 竹里「私有地から出た品は地主の物。即ちここは寒村家の私有地だから網守子の物ーーー、是が我が国の習慣(ならわし)です。」
 網守子「でも此の土地では、海から揚がった物でも何でも、拾い主の物と定めてあるわ。」
 梨「爾(そう)ですか。若し私の物なら、更(あらた)めて貴方に上げます。」

 網守子は、
 「有難う」
と言って直ぐに自分の首へ嵌(は)めた。
 竹里「梨英君、何に就けても僕より幸運児だよ。」
と云って笑ったが、全く自分の方が土を掘ったら好かったのにと思った。



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