巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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トシのウォーキング&晴耕雨読

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メロンとゴーヤ


このウェブサイト(ホームページ)はウォーキング、ウォーキングで出会った花、野鳥、黒岩涙香の小説の私の口語訳、その他を掲載します。

黒岩涙香の作品の詳細は黒岩涙香作品集でごらんください。

現在進行中の黒岩涙香の作品

8月21日 黒岩涙香の作品の16作目「女庭訓(おんなていきん)」を現代文に直したものを連載開始しました。

毎回初めの日はここに掲載し、次の日に「女庭訓」のページに移します。

新聞「萬朝報」に明治28年(1895年)12月 8日から明治29年(1896年)3月 4日まで連載されたもので、作者不詳の訳です。

原文が難しい漢字や漢字の当て字を多く使っていること、旧仮名表記なので、現在の漢字や仮名表記に直しました。

女庭訓  作 不詳  涙香小史 訳述  トシ 口語訳

画面上部の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください

     第六回 故郷に帰った文子

 懐妊(みもち)の儘(まま)に、夫を捨てて姿を隠したあの文子は、何所に行ったのだろう。文子に捨てられ、落胆して泣き沈んだ夫、田守安穂は如何(どう)したのだろう。数か月の後に至っても、全く知る方法が無かった。

 抑々(そもそ)も文子の故郷赤城村と言うのは、英国の片隅の街道から離れた山間に在り、町とも附かず村とも附かず、物持ちの人が多く住んでは居るが、互いに親密に交際することは稀で、唯だ金銭財産を貴び、金を多く持って居る人を貴人として敬い、曾(かつ)て身分が真に貴かったか否かは問わず、金が無ければ身分系図は正しくても、人は皆見捨てて顧みない。

 だから前年、以前から大金満家と噂のある富淵金造翁が、印度から帰り、山手に昔から人も住まずに打ち捨てて有る別荘を買い入れ、修繕して居を定めてからは、土地の紳士も商人も、翁に交わるのを第一の栄誉と心得てか、様々の通手(つて)を以て、翁の機嫌ばかりを取ろうと勉めて居て、

 却って翁よりは身分が高く、血筋正しい文子の伯父花添露伯などは、唯だ医者として病人の有る度に仕方無く迎えられるに過ぎず、日頃は一口に貧乏医師と言われ、振り向いて訪問する人も無い。

 時は早や四月の中程と為り、広くもない庭に、手入れと言うほどの事はしていないが、樹木は自ずから時を知って花を着け、相応の眺めが有るので、今しも花添露伯は病家を一廻りして帰って来て、夕日に暖かく顔を晒して、文子の妹である里子、敏子の両人と共に、庭を散策しながら、遥かに聞こえる郵便馬車の音を聞き、都の空を思い出してか、

 「アア文子は何うした事か。昨年の十二月に伯父金造翁の帰った事を知らせ旁々(かたがた)、直ぐに帰れと言って遣ったのに、帰ると言う返事だけで、既に四月も経ったけれど、未(いまだ)に帰って来ない。その後二度ほども催促して遣ったけれど返事が無い。」
と言い掛け、背後(うしろ)に季(すえ)の敏子が、悪戯(いたずら)にも桜の枝にブラ下がるのを見て、

 「コレ先(ま)ア和女(そなた)は又してもその様な悪い事ばかり。それでは富淵金造翁が目を掛けてくれないのも最もだ。」
 伯父姪一同、金造翁に目を掛けられるのを、この上も無い幸福と思っている事が知られる。
 三姉妹の真ん中の里子が進み出て、
 「富淵金造の翁(お)じさんは、余り姉(ねえ)さんの帰りが遅いから、都に逢いに行くと言って居ました。帰えらないのは姉さんが悪いのだから、私は捨ててお置きなさいと言いましたがーーー。」

 露「又しても和女は、兎角姉の事を善く言わないが、同胞(はらから)で有りながらその様に言うものでは無い。取做(とりな)して置くのが当然と言う者だ。」
 里「ダッテ姉さんが帰って来れば、富淵の翁(お)じさんは私には構ってくれません。誰からも私より姉さんの方が大騒ぎをせられますもの。」

 折しも先の郵便馬車が此の家の前に来て停まると、敏子は悪戯者(いたずらもの)だけに早くも目を留め、
 「ア、姉さんが帰って来た。帰って来た。」
とて門前へ飛んで行こうとする。露伯は驚き、
 「ナニ文子が」
と言いながら老いの目を擦(こす)って見て見ると、成るほど文子が馬車から下り、一個の古びた鞄(かばん)を受け取り、此方へ入って来た所だったので、嬉しさに馳せ寄ろうとすると、彼方(むこう)から早や馳せて来て、

 「オオ伯父さん、漸(やっ)と今帰って来ました。」
と言い、縋(すが)り附くのは確かに文子である。文子は昨年の暮れ、夫の田守を捨て去ってから、今まで何所に何を為し居たのかは知らないが、何さま艱難は引き続きした者と見え、その時よりは痩せ衰え、色も一層青くなって、殆ど産後の人かとも思われる程であったが、露伯は唯だアタフタとするだけで、その様な所までは気も附かなかった。

 「オオ好く帰って来てくれた。余(あんま)り帰りが遅いので、私はもう和女が金造翁に見限られはしないかと思い、どんなにか心配した事か。」
 此の言葉で金造翁がまだ見限って居ないのは明らかなので、文子は先ず一まず安心した様であったが、敢えてその様子は見せず、

 「私もその叔父さんには初めてお目に掛かる事なので、早く帰り度いと思いましたが、容易に主人から暇が取れず。」
 全くの偽りである。疾(と)っくに主人から暇を取り、夫まで持った事を知る人が居ないのが幸いである。

 中娘の里子は早や金造翁に取り入って居るが、我身を追い払う大敵が来たと、まさかそれほど迄には思わないが、何となく不機嫌に姉の様子を眺めて居たが、挨拶よりも先に、
 「先(ま)ア、姉(ねい)さんの着物の汚れて居る事、都で此の様な姿を仕て居たのですか。」

 文子は急所を刺される程の思いではあるが、
 「そうとも、大勢の児を預ッて、子守同様に働くのだもの、着物などは堪(たま)りは仕ない。」
 里「ですが姉さん、荷物は何うしました。未だ馬車へ残して有りますか。」
 文子は益々窮(困)まり、
 「荷物は此の鞄(かばん)ですよ。」
 里「イエッ、それでは無いのですか。着物や飾り物などを入れて有る大きい荷物は。エッ、その鞄には狭くて着物などは入れて居ないでしょう。」

 手厳しく攻め込まれて、
 「着物は此の外には有りませんよ。大勢の児供を相手で、家から持って行ったのは皆台無しに成り、永く世話に成った女中などに遣って仕舞って帰ったのサ、新しく拵(こしら)えても直ぐに又着古すから。」

 里「では一年四十磅(ポンド)の給金を、二年と六カ月分、手就(つ)かずに溜めて来ましたか。そのお金で早く着物を拵(こしら)えなければ、貴女は外へ顔さえ出されませんよ。此の土地の人は皆、貴女が倫敦(ロンドン)の流行をその儘(まま)持って来るだろうと言って待って居ますから。」

 文子はここに到って返事をする事が出来ず、鉾先(ほこさき)を避けようとして、又伯父の方に振り向くと、露伯はこの様な事に気も留めず、
 「何しろまあ好く帰って来た。明日は早速金造翁の許に行かなければーーー。」
 里子は猶(なお)も口を出し、

 「此の外に着物が無くては、あの翁(お)じさんの所に行かれますものか。」
 露伯は叱る様に、
 「和女のを貸して着せれば好い、和女は暮れからもう三襲(みかさね)も翁に拵(こしら)えて貰ったじゃ無いか。一枚は姉さんに貸しても。」

 里「イエお気の毒さまですよ、今では姉さんより私の方が背が高く、姉さんが着たら裾を曳きますよ。」
とは十七歳にして十九の姉より成長した事を誇るものである。
 露「長ければ揚げも出来る。その様な事を言う者では無い。サア丁度夕飯の時刻と為った、先(ま)ア内へ入り緩々と話も仕よう。」
と言い、露伯は文子に振り向いて、初めて其の寠(やつ)れ方の一通りで無いのを見て、

 「オオ可哀想に、人の子供を預って苦労の痕が現れて居る。ドレ私が興奮剤を調合して遣ろう。」
 苦労の痕がまだ残って居ると見られるのは、何よりも辛いけれど、
 「イイエ伯父さん、家へ帰ったのが何よりも薬です。もう安心して気も清々致しました。」

 真に安心した様子である。今から足掛け三年以前に、この様な田舎に出世の道は無いと、住み飽きて出て行ったその家を、今は広い世界に又と無い場所として帰って来た。思い遣れば又憐れむべき身の上である。

 第六回 終わり

前回までは「女庭訓」のページに移動

「女庭訓(おんなていきん)」のあらすじ

 イギリスの田舎に育った三人姉妹の長女文子は美貌の持ち主で、出世しようとロンドンに出て家庭教師を始める。
 そこで出会った田守安穂という若者が美貌の文子に一目ぼれし結婚する。一家を構える資金も無いままの結婚で、忽ち困窮に襲われ、その日の暮しもままならなくなる。そんな時に田舎から、印度で事業をしていた叔父金造翁が莫大な財産を持ち帰って来て、文子を呼び寄せている行って来る。金造翁の面倒を見れば死後莫大な財産が遺産とし貰えると期待し、苦しい結婚に見切りをつけ、数年我慢をして莫大な財産を持ち帰れば、夫も許してくれるだろうと夫を置き去りにして、金造翁の許へ行く。

登場人物は例によって日本名になっています。

庭訓(ていきん)とは家庭教育というような意味。

雨読のページ

黒岩涙香の作品

◎明治の言葉、漢字の当て字、文体なので、なるべく原文の調子を崩さない様に、誰でも読める様に直しました。

既にUP済みの作品

1.鉄仮面 ・・・鉄仮面は誰か

2.白髪鬼 ・・・白髪鬼となり復讐へ

3.野の花 ・・・田舎育ちが貴族に嫁いで

4.巌窟王 ・・・泥埠の土牢から脱出して 

5.如夜叉 ・・・「まあ坊」憎さに娘を傷付けてしまう三峯老人 

6.妾(わらは)の罪 ・・・殺人の汚名を着せられる古池華藻嬢 

7.嬢一代・・・・「血を見る敵」と言い残して立ち去ったイリーン嬢。

8.武士道・・・・敵方の縄村中尉に恋してしまう弥生。

9.悪党紳士・・・誰だか分からない敵におびえるお蓮。

10.捨小舟・・不倫を疑われ男爵家を去る園枝。

11.美人の獄・・・夫毒殺の容疑で逮捕される雪子。

12.島の娘・・・島の娘が発奮して自分を磨き、思いを遂げる。

13.噫無情・・・幾等善行をしても報いられない生涯を送る戎瓦戎(ヂャンバルヂャン)。

14.活地獄・・・200万フラン(28億円)を贈るという遺言状を残された柳條。遺言状の獲得を廻って争いが。

15.決闘の果・・・いつの世にもある美貌の毒婦の元祖森山嬢

詳しくはここから黒岩涙香作品集

「ゲストとトシのフォトサロン」

「ゲストとトシのフォトサロン」を開設しました。毎日更新しています。いろいろな写真をご鑑賞ください。

Ⅰ. H.平野のフォトギャラリー

H.平野のフォトギャラリーへはここから入れます。(青文字をクリック)

NO.126 2017年7月15日 幕張海岸

幕張海岸7.15

makuhari7.15 7月15日の「幕張海岸」をもっと見る方はここからどうぞ

NO.125 2017年7月14日 幕張界隈

幕張界隈7.14


幕張界隈7.147月14日の「幕張界隈」をもっと見る方はここからどうぞ

NO.124 2017年7月 8日 成田祇園祭

成田祇園祭7.8


成田祇園祭7.87月 8日の「成田祇園祭」をもっと見る方はここからどうぞ


  
Ⅲ. トシの花図鑑
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