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島の娘 (扶桑堂 発行より)(転載禁止)
サー・ウォルター・ビサント作 黒岩涙香 訳 トシ 口語訳
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(二十) 「四、五〇〇,〇〇〇円」
鰐革の此の嚢(fふくろ)の中に、何が入って居るのであろう。網守子は怪しみつつ開いて見た。
中には、絹の袱紗(ふくさ)《絹、縮緬などで作った小型の風呂敷》に何物か包まれてある。勿論袱紗も余程古びて居る。
更に其の袱紗を開くと、無数の小石と一枚の反古(ほご)かと見える紙が出た。
小石は赤色を帯びて居るが、別に珍しいとも思われない。網守子の目には、浜辺の砂の中に幾等も見出される赤石と、大した違いは無い。其の中の一番大きなのは直径七、八分(2.1cmから2.4cm)も有らう。小さいのは小指の頭ほどである。
「オヤオヤ、此の様な者が何で宝と云われるのだろう。」
紙には、面に文字がある。けれど余り年を経たのと、海水に浸された為であろう、良くは読め無い。
又ところどころは破れて居る。其れでも網守子は、拾い読みに読んで見た。
「此のルビーは・・・・・の忠勤に対し・・・・・国王の・・・・・余に賜う(たま)う所となり、最も大なるは如何に安く見積もるも・・〇〇〇〇〇円の価値あり・・・余が血を以て・・・・殆ど・・・・よりも貴し・・・第二の大なるは・・・・鉱の産出にして是れ又余が正直・・・結果な・・・・
小なる・・・・一個一万・・・以上・・・・必ず・・・・余の子孫に伝へん。
…月・・・・古江田利・・・・
総計・・・・・・円以上の見積もり
何の事やら良くは分から無いけれど、此の石が未だ磨かざるルビーであることと、見掛けに由らぬ非常なる値の有ることは、網守子にも察せられた。
「アア是だけは他人の物だから、猶更大事にしなければいけない。」
と云い、元の通り包んで嚢に納めた。
彼(あれ)と云い是と云い、唯驚くべき事ばかりなので、網守子は頭の中が混雑した様に感じ、少しの間窓に行き、幕を少し掻き排(ひら)いて海の方を眺めた。
其の中に、漸く心も落ち着いたので、幕を閉じて再び此方に振り向いて見ると、外の明るさに少し眩(くら)んだ眼にも、テーブルの上に、山の様に盛り上がって居る金貨の光は、格別だ。床に取り出してある八十の袋も、追々はっきりと見えて来た。実に何と云う驚くべき眺めであろう。
是だけが総て自分の物、自分一人の物、金貨のみでも四、五十万円(現在の4.1億円から5.1億円)、全く夢の様である。
見て居る中に、次第に網守子の心へ変化が来る。何だか自分の身が、貴くなる様に思われる。自分は若しや、貴婦人と云う者に成ったのではないだろうか。貴婦人の定義は、度々路田梨英から聞いた。此の様な大なる財産を持って、今迄の様に自分を軽く思って居て好いで有らうか。路田梨英が居れば、聞いて見るのに、今は問うべき人も無い。
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